大学院修士学生がしておいたほうが良いこと

 前のエントリ にてのほほんと博士課程進学を勧めてしまいましたが,夢のある話だけではないよ,という背景も知らせておくことが必要かな,と思いました.というのも下記の記事を一通り読んだからです.

 それぞれは少し長めですが,大学院進学,研究者志望の方,大学教員の方は一度目を通してみるべきではないでしょうか.色々と思うところが出てくると思います.



 以上の記事を読んでみて,上記記事とは論点がずれるかもしれませんが,自分の思ったことを記してみます.こういった危機意識を持った上で,研究室に入ってしまった学生が何をしておくべきなのか,という視点です.少し文章が長いです.

学生が修士時代にやっておくべきこと
とにかく投稿論文を書く
 博士課程に進学しようがしまいが,論文を書いてみましょう(卒論がいい感じに仕上がった場合,修士課程1年目に良い結果が得られた場合に限りますが).論文を書くプロセスは非常に勉強になります.自分の研究の結果や考察を客観視し,それが研究分野・社会に対してどういう貢献をするのかを論理的に説明し,伝わるように文章を書く.そして指導教官とのやり取りや査読を通して自分の客観視の至らなさを痛感し,更に修正を加える.運よく受理にまで至れば,自分の業績が世に出ることになり,人の目に触れる楽しさも得られます.
 ところで学士時代,同期で就職活動をしていた友人を見るに,エントリーシート書きに皆困っていた印象があります.「あなたが学生時代に一番頑張ったことは何ですか?」「何でもいいから自由に自己アピールして下さい」のように「うちの会社を志望しているお前は,一体何者なのだ」という答えを迫られます.これをうまく書くには「自らの客観視 → 書くべき内容の取捨選択 → 説得力を持った言い回し」が必要です.
 これって研究内容を論文としてアウトプットするプロセスと似ています.せっかく修士に上がったというのに,就職活動時に学士の学生たちと同じような土俵で勝負してしまうのはもったいないです.「修士課程に進学したことで専門的な知識が深まりました」は当然のことであって,それに加えて「投稿論文を執筆することで多少なりとも論理的思考(logical thinking)ができるようになりました」という自負が出来上がるのはかっこよいし,自己アピールに役に立つスキルです.

駄目もとでも「学振DC」の申請書を書く
 これは博士課程進学を考えている学生に限ります.制度の内容などについての詳細は こちら をどうぞ.
 学振申請書書きは論文書きと同じくらい,自己(自分自身,自分の研究を含む)客観視を嫌が応にもさせられます.これまでの自分の研究状況・研究業績・これからの研究計画を書くわけですが,それぞれをA4サイズ1,2枚程度を自ら埋めなければなりません.
 卒論レベルでは研究室単位・研究科単位での自分の周囲の狭い範囲さえ説得させられれば良かったですが,申請書は広い分野の方に対して自分の研究の重要性を納得させる必要があります.博士課程に進学する場合,一般的な就職活動を経験しない人も多いだろうけど,これこそが「エントリーシート」的な役割を果たしていると思います.
 申請書が通れば向こう2,3年の収入が約束されるし,通らなくても自分の鍛錬になります.GWがつぶれるし,かなり頭を悩ませるしでつらい作業ですが,やっておくべき作業ではないかと.

上記を踏まえて指導教官に求めたいこと
 論文書き・申請書書きを勧め,その時間を確保し,そして(一番大事なことですが)その指導に時間を当ててほしい.論文書き・申請書書きはとてもしんどい作業です.ただ「書け」というのは簡単ですが,そういう指導が大学の授業であったわけでもないし,そのやり方がまったく分からない.時間が無いのならせめて「こういう本を読んで参考にしてみよ」ぐらいのコメントは欲しいです.そして仕上がってきた文章に対して建設的なコメントが欲しいです.
 短期的に見ると損失は大きいでしょう.執筆中は学生の観測・実験の進行が滞るし,指導することで自分の研究時間が減るし,思い通りに学生を動かせられなくなる.しかし長期的に見れば良いことが多い.指導教官として自分の名前が共著に入る論文が仕上がるし(業績が増える),もし学振が通れば自らの腹(=研究費)を痛めることなく自らの下で1人の学生が研究ができる.
 「うちの研究室に来て修士に上がれば投稿論文が1本書けるように指導します.そしてそれを通して論理的思考(logical thinking)の一端を学べるので,その後企業に就職するとしても良い武器を授けられます」というのはいいアピールになるのではないかと思います.

思うこと
 結局自分たちでお金を出してまで大学院に通っているのだから,指導教官を利用してやる,くらいの気持ちは持ってもよいのではないかと思います.私の指導教官の言で好きな台詞(意訳あり)がありまして,

研究者の良いとこは,自分の名前で論文を出せることだ.論文に所属は書くけれど肩書きや性別は書かれない.雑誌というフィールドでは教授だろうが学生だろうが同じ立場なんだ.

良いこというなと思った.

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 自分自身が恵まれた教官環境・先輩環境にいたことは否めません.気持ち云々でどうにかなる状況ではない方もたくさんいるとは思います.でもそれでも,気持ちを持たないよりは持った方が良いことに変わりありません.